05月14日
(火)
2024年

なぜ、新興ライフサイエンス企業は著作権コンプライアンスに対応する必要があるのか

By CCC

 

本ブログ記事は2024年1月9日に原文が投稿されたものの翻訳になります。

 

EndPoints Newsが2023年に発表したレポートによると、米国のFDAが承認した新しい治療法のうち、小規模企業によるものは、2021年は66%、2022年は約70%でした。さらに、2022年に報告された6,918件の臨床プログラムのうち、驚くことに77%は小規模企業発でした。

 

実務レベルでは、これらの新興企業は非常に効率的に事業を行っており、化合物の発見や特許の取得以外には、ほぼ予算を充てていません。多くの中小企業は人材、プロセス、建物、機器など、費用がかかる投資に限られた予算を投入するより、これらの運用を外注したり、他の組織とコラボレーションしたりする方が効果的だと考えています。外注およびコラボレーションのプロセスでしばしば見落とされる分野は、著作権コンプライアンスとその違反による関連リスクを管理する方法です。

 

著作権無視による高リスク

 

ライフサイエンス研究においては、科学情報、とくに雑誌に掲載されている論文を迅速に入手し、共有する能力が重要なカギの一つになります。しかし、多くの企業が認識していないことがあります。それは、発表されている科学論文の多くが、情報の使用および共有方法を定めた著作権法(権利は通常、出版社あるいは論文の著者が持っています)で保護されていることです。最近、Outsellがライフサイエンス業界を対象にまとめたデータによると、この業界では、情報を送付するにあたって著作権の問題を考えているかについて「それほど強く意識していない」と答えたナレッジワーカーは59%、著作権侵害に重大なリスクと影響があることについて「それほど強く意識していない」と答えたナレッジワーカーは62%にのぼりました。

 

この問題は、リモートワークを考えると、さらに懸念されることになります。ライフサイエンス業界の平均では、回答者の33%がフルリモート環境、28%がハイブリッド環境で仕事をしています。そして、それらの調査対象社員のうち、30 %は「より頻繁にコンテンツを共有する」、54%は「より多くの人と共有する」と報告しました。中小規模の組織では、ナレッジやイノベーションの推進にコラボレーションは不可欠で、適切なツールがあればこのようなコラボレーションに伴うリスクを抑えることができます。論文を購入してダウンロードした場合、通常、その論文を使用する権利があるのは購入した個人に限られます。

 

組織がその論文のコピーを他のユーザー、すなわち社内では同僚、あるいは社外では規制当局、顧客、他の企業、パートナーなどと共有しようとするなら、著作権保持者から追加の著作権使用許可を取得する必要があります。ライブラリアンあるいは情報スペシャリストが社内にいない小規模な企業では、著作権法に基づく義務を認識していないかもしれませんが。知らなかったからといって許されることはありません。適切な許可を得ずに使用された場合、著作権保持者は著作権侵害を主張して権利を行使することができます。

 

社員が資料にアクセスする方法についても、著作権侵害の問題が発生します。より小規模な企業では、研究者は出身校を利用して科学論文をダウンロードし、同僚と共有することがあるかもしれません。これはおそらく、学術機関のライブラリーが取得している定期購読ライセンスの条件に違反することになるでしょう。というのは、そのような場合、学術研究以外の目的で論文を使用することは通常認められていないからです。一元化された情報ハブがない企業では、研究者は、「無料の」科学情報ソースであることを謳っているSci-HubやResearchGateなどのサイトから論文をダウンロードするかもしれません。しかし実は、ResearchGateは欧州と米国の両方で訴訟に巻き込まれています。出版社はResearchGateが著作権法で保護されている研究論文を不法に取得し、配布したと主張しています。米国においては、Sci-Hubが著作権侵害で2回、訴訟を起こされており、いずれも敗訴しています。

 

中小企業が著作権についてもう一点注意しなければならないのはオープンアクセスコンテンツです。予算の制約が厳しい時、オープンアクセスコンテンツは有料の定期購読に代わる魅力的なソースです。しかし、オープンアクセスのライセンスには多くのタイプがあることを知っておくことが重要です。ユーザーは認識していないかもしれませんが、コンテンツの再利用あるいは共有の前に、個々のオープンアクセスライセンスでどのような権利が認められているのかを意識して、許諾条件の違反を確実に防ぐ必要があります。特にCC-BY-NCの「NC」は非営利(non-commercial)使用に限るということです。

 

それ以外にも気づきにくい著作権侵害として、電子メディアが関わることがしばしばあります。使い方や目的によっては、無意識に他者の著作権を侵害しているかもしれません。たとえば、YouTube動画を自分のPower Pointのプレゼンテーションに埋め込んだり、商用のポッドキャストを自社のイントラネットで流したり、LikedInのブログをコピーして自分のブログにペーストしたりした場合です。これらはいずれも、事前に著作権保持者に許可を得るべきかを考えるべきです。

 

さらに、コンテンツの調査や検索にAIテクノロジが使用されるようになり、著作権および著作権で保護された資料の扱い方はさらに複雑になっています。たとえば、AIモデルのトレーニングのために用いられたデータセットに著作権で保護された資料が含まれている場合、情報を原典に正確に結びつけたり、原典の使用に特定の制限があるのはどのような時かを把握したりするのは困難かもしれません。そのような場合も、集中許諾サービスがあれば、AIシステムにおける著作権保護資料の使用について、潜在的なリスクに対応することができます。

 

何が問題で、それに対して何ができるのか?

 

コンテンツを不法に共有することは、研究機関が尊重するインテグリティの文化を損ない、企業としての評価や価値に悪影響を及ぼすことがあります。著作権を侵害するビジネスのやり方は倫理に反します。著作権侵害を回避する努力は、一連のコンプライアンス活動に含まれるべきであり、製造、金融データ、研究アーカイブについて講じられているのと同様の予防手段が取られるべきです。

 

社内のリソースが限られていることが多い小規模企業にとっては、著作権遵守の努力を外部委託する方法がいくつかあります。個々の出版社と個別に定期購読契約を締結し、雑誌あるいはコレクションごとに使用権を得ることもできます。そのほかには、Copyright Clearance Center (米国)、Copyright Licensing Association (英国)、Access Copyright (カナダ)などの複製権機構からレパートリー著作権ライセンスを取得して、より広範なソリューションを求める企業もあります。このような場合、複製権機構は対象国や領域内、あるいは場合によっては世界的に、書籍、学術誌、新聞、雑誌などの二次使用権(保存、同僚とのコピーの共有、規制当局への提出など)の管理を出版社に代わって行います。

 

チームが効率的かつ著作権法を遵守してコンテンツにアクセスするのを確実にするために、その一助として、さまざまなオンライン雑誌を定期購読する、あるいはオンラインライブラリーソリューションのライセンスを取得することもできます。後者は、論文や書籍の章をオンラインで配信し、ユーザーは使用許可が確認できます。

 

デジタルテクノロジーにより、情報を広範囲の人々のグループに一度に配布するのが容易になって以来、著作権問題はますます顕著になっています。だからこそ、メール、インスタントメッセージ、ブログ投稿、プレゼン資料まで、媒体を問わず、コンテンツを共有する際には、適切な権利を持っていることを確認しなければ、自社を財務的、法的、さらには評価の上でリスクに晒しかねないことを、あらためて意識する重要性が高まっています。

 

参考記事:

 

企業の成長と共に情報ニーズも増加します。CCCは、現在のニーズと将来の成長のバランスを取ることの難しさを認識しており、小規模なライフサイエンス企業が情報「不足」および著作権遵守の課題に対処できるように、企業の成長に合わせて拡張できる、持続可能なワークフローソリューションを提供しています。RightFind Enterpriseの詳細と使用されている実例をご覧ください。

 

編者注:本ブログは2019年の投稿を2024年1月に改訂したものです。

 

トピック:製薬、医療