04月21日
(月)
2025年

生成AI時代の著作権対応:責任あるAI利用はライセンシングから

By Roanie Levy

本ブログ記事は2024年11月5日に原文が投稿されたものの翻訳になります。

 

どうやらあらゆる業界の企業が人工知能、特に生成AIを急速に取り入れて、業務の改革、生産性の向上、イノベーションの推進を図ろうとしているようです。 マッキンゼーの最新のAIグローバル調査によると、生成AIの導入はわずか10ヶ月で2倍近くになっており、回答者の65%がそのテクノロジーを今では自社で常用していると報告しています。社内プロセスの合理化から最先端の顧客エクスペリエンスの創出まで、AIの用途は幅広く、大きな影響を及ぼしています。企業は、社内では、自動報告書作成、データ分析、従業員教育プログラムなどのタスクにAIを活用しています。社外では、顧客サービスにAI搭載のチャットボットを採用したり、AIを活用してマーケティングキャンペーンをパーソナライズしたり、さらには製品開発にもAIの支援を利用しています。調査ではまた、企業がどこで実際的なメリットを感じているかも明らかになっています。回答者の中で最多の割合を占めたのは、生成AIの利用による人件費の大幅な削減で、一方、収益増加が最も顕著だった部門はサプライチェーンおよび在庫管理でした。このような強力なツールはますます日々の業務の一部になっていますが、ここで重大な疑問が頭をもたげます。それは「どのようにすれば確実に、この画期的なテクノロジーを合法的かつ責任を持って利用できるのか」です。

マッキンゼーの調査では、AIを取り巻く状況において、知的財産(IP)の問題が重要であることが強調されています。生成AIに関連するリスクカテゴリーとして、「IP侵害」は「不正確」に次いで第2位に挙げられています。

調査によると、回答者の52%が「IP侵害」をAI利用に関連するリスクに挙げていました。それは、「サイバーセキュリティ」「個人のプライバシー」「法規制コンプライアンス」「説明可能性」「公平公正」などのその他の重要な問題よりも上位でした。しかし、そのように上位に位置しながらも、IP侵害リスクを軽減するために積極的に取り組みを行っていると報告した企業は25%にとどまっていました。リスク認識と軽減努力の間の歴然とした差から、企業がAIイニシアチブを拡大するにあたって、もっと決然とした対策を講じるべき重大な領域が浮かび上がります。

その他の最近の記事で、Daniel Gervans、Haralambos Marmanis、Noam Shemtov、Catherine Zaller Rowlandの共著である 「問題の中心:著作権、AIトレーニングとLLM (The Heart of the Matter: Copyright, AI Training, and LLMs)」は、この複雑な状況に貴重な洞察を示しています。なぜ責任あるAI利用は適切なライセンシングから始まるのか、この海原を航海する企業にとって、それがどのような意味を持つのかを探ってみましょう。

 

AIと著作権の困難な問題

 

大規模言語モデル(LLM)を応用したChatGPTなどの生成AIモデルは、膨大な量のデータを元にトレーニングが行われます。それらのデータの多くは、著作権で保護された著作物です。「問題の中心」の著者らが指摘するように、これは法的および倫理的に重大な疑問を引き起こしています。AIモデルがトレーニングにおいて著作権で保護された著作物を取り込むのは、著作権侵害にあたらないのでしょうか? 企業がこれらのモデルを社内で利用する時、自らを法的リスクに晒していることにならないのでしょうか?

手短に回答すると「複雑」です。しかし、打つ手がないわけではありません。実際、責任あるAI活用の重要性を理解している企業であれば、取るべき明快な道筋があります。それはライセンシングです。

 

ライセンシングが重要な理由

 

著作権ライセンシングソリューションには、著作権保有者との直接ライセンシングや包括ライセンシングなど、多くの種類があります。ライセンシングにより、多数の著作権保有者の著作物を一定の条件で利用できるようになります。責任あるAI利用について言えば、ライセンシングは単に法律で求められている形式上の手続きというわけではありません。責任あるAIパラダイムの根源的な側面です。その理由は以下の通りです。

  1. 法的なコンプライアンス:適切なライセンスを取得しておくと、企業は著作権法を確実に守ることができ、安心してAIツールを利用できます。
  2. 倫理的配慮:ライセンシングは著作物の価値を評価するもので、クリエイターにはその価値に見合った報酬が提供されます。それがさらにはAIの進歩に貢献します。
  3. リスク軽減:適切なライセンシングにより、企業は法的問題を抱えるリスクを最小化できます。

 

CCCの包括AI利用権:イノベーションを推進する

 

CCCは、AI時代に向けて、既存のライセンシングソリューションを拡張する必要があることを認識し、自主的なオプトイン包括ライセンシングソリューションである年間契約型著作権ライセンス(JAC DCL)に組織内でのAI利用を可能とする内部AI利用権を統合しました。

このライセンスにより、JAC DCLカスタマー企業は、著作権で保護された特定の著作物を社内の業務目的に限ってAIシステムに利用することが容易にできるようになります。これはウィン-ウィンのソリューションで、「問題の中心」で挙げられた状況の多くに対応できます。そのような状況には、著作権で保護されている著作物をAIトレーニングに利用するための複製、著作権で保護されている著作物を活用したファインチューニング、プロンプティング、RAGモデルにおける利用、二次的著作物の作成、著作権管理情報の除去などがあります。進化したJAC DCLは、組織内利用に向けて体系的なライセンシングフレームワークを提供するため、企業はAIテクノロジーを責任ある形で活用しながら、法的および倫理的な問題を軽減することができます。

ユースケースは業界や企業そのものと同じ数ほどあり、われわれはどのように生成AIが企業を全体的に前進させるのかについて、探究を始めたところです。各業界の企業がこのライセンスをどのように活かすことができるのかについて、以下に例の一部を挙げます。

  • エネルギーエンジニアリング企業:最新の研究論文や技術レポートを元にAIシステムのトレーニングを行い、最新の製品設計に関するスタッフトレーニングの効率向上を図る。
  • バイオテクノロジー企業:何千もの医学ジャーナルの文献レビューを合理化して、関係が深い研究と最新の治療法で想定される薬物相互作用を迅速に明確化する。
  • 多国籍製造企業:さまざまな国の業界基準と技術マニュアルを元にAIモデルのトレーニングを行い、自社製品のグローバルコンプライアンスチェックを促進する。
  • グローバル金融サービス会社:市場レポート、金融ニュース、経済分析のアーカイブを元にAIモデルのトレーニングを行い、より正確なリスク評価と投資戦略を実現する。
  • 多国籍小売チェーン:業界傾向レポート、消費者行動研究、ファッション誌を要約し、今後のスタイルの傾向を予測、在庫管理を最適化する。
  • 経営コンサルティング会社:リーダーシップに関する書籍、経営ジャーナル、ケーススタディーを元にAIのトレーニングを行い、組織の変革管理を推進する。

これらは、企業がAIの潜在可能性をフルに活用してイノベーションと効率性向上につなげるにあたって、ライセンシングがどれほど有益かを示す数多の例の一部です。

 

組織内利用を超えて:AIライセンシングの将来

 

CCCが現在、提供しているライセンシングは組織内利用に限定していますが、これはおそらく始まりでしかありません。Roy Kaufmanが「著作権ライセンシングと独占権の関係:AIの場合(The Interplay Between Copyright Licensing and Exclusive Rights; AI Edition)」で指摘しているように、ライセンシングソリューションはさらに発展して、組織内利用を超える可能性があります。

生成AIシステムで可能になる組織外ユースケースを対象として、大規模言語モデル(LLM)のトレーニングに著作権で保護されているコンテンツの利用を許諾するライセンスがあると想像してください。そのような発展から、新たな可能性の世界が開かれることもあるでしょう。

 

AI利用において責任を持ってIPコンプライアンスを遵守するためのステップ

 

責任あるAI運用に乗り出す企業にとって、実行可能なステップには次のようなものがあります。

  1. AI著作権慣行の監査を行う:著作権で保護されている著作物をAIシステムで利用する場合、自社とサプライヤーがそれらの著作物をどのように調達、利用、追跡しているかを見直す。
  2. ライセンシングのギャップを縮小する:CCCのような包括ライセンシングソリューションに加え、コンテンツ所有者との直接ライセンシングの場合も調査する。
  3. AI著作権ガバナンスフレームワークを策定する:著作権を尊重して責任あるAI利用を行うためのガイドラインを作成、運営委員会を設立、方針を実装する。
  4. 最新の情報を入手する:AI著作権に関する法規制やライセンシングの方法について常に最新情報を得ておく。この分野は急速に進化している。
  5. チームを教育する:組織内でAIツールを利用する全員に著作権コンプライアンスの重要性を周知する。

 

進むべき道筋

 

期待が高まっているとはいえ、複雑でもある生成AIの世界を突き進むにあたって、ライセンシングが重大な役割を担うことは明白です。ライセンシングソリューションを取り入れる企業は、著作権を尊重し、コンテンツ制作者を支援しながら、自信を持ってAIの力を活用することができます。

責任あるAI利用はコンプライアンスだけの問題ではないことを覚えておいてください。イノベーションと創造性が豊かに栄えるエコシステムを創出することなのです。「問題の中心」で強調されていたように、著作権とAIの相互作用はこの課題の中核です。ライセンシングを通して、真正面からその課題に向き合うことによって、AIが人間の創造性を脅かすのではなく、推し進める将来に向けて、道を切り開いていくことができるのです。

著者らは次のように述べています。「著作権とAIが両立する将来を育むためには、これら2つの主要な領域が交差するところで、著作権とテクノロジーの両方の力をイノベーションのエンジンに活用しつつ、慎重に歩を進めることが不可欠です」

この課題に取り組み、責任あるAI利用の道を牽引していきましょう。究極的に、それでイノベーションの未来が決まるのです。